ネタバレのある感想を書きます。
・竜とそばかすの姫
細田守監督が書きたいことと、その良さを存分に発揮できている映画だったと思う。
サマーウォーズを彷彿とさせる始まり、壮大な音楽が劇場に響き渡る。
仮想現実がもっともっと進んだ世界の話。
Belleという人間の歌声がとても象徴的に響く。
これは「美女と野獣」の作品のオマージュなんだろうなと思った。
彼の作品に出てくる「物語のどこかで自らを無くすほどわあわあと泣く舞台装置としての女の子」「夏の入道雲」「色気のある影を持った少年」「インターネットに強い同級生」「田舎への憧憬」「世話焼きのおばちゃん」
それらが、噛み合っていた作品であったと思う。
疲れが無く観れたということ、それはポリコレに配慮されているということである。
彼の作品に出てくる「女性」というのはいわゆるよくある「女性」として眼差しを向けられていない、良い意味で。
多分監督は女という存在に対して、そんなに興味関心が無いのかもしれない。
だからこそ疲れずに見られるところもある。全体的に彼女の成長譚として凄く丁寧に描かれていた。それがすごく良かったなと思う。
人との断絶、断絶したくないと願う人間、今まで裏切られて続けてきた人間の深く深くにある絶望、理解し切れない感情への寄り添い方、言葉でどうとでも言える人間の言葉に期待し一気一憂し傷つけれらる人間。
自分が救いたいからと己の子供を振り切る人間、自分が選んで産み落とした命の落とし前をつけてくれと思った。
そこはもっとわがままを言っても良かったんだよ、と思ったよ。
人は愚かで最低で最悪の生き物だ。彼や彼女の絶望は、私たちの絶望でもある。
命を生み出すことへの責任を軽く考える、そういう人間達への非難みたいなものもあるのかもしれない。
今ある命を大事に出来ない世界なんか大っ嫌いだ。
彼ら、彼女らは仮想現実に、自分ができないことへの居場所を求めた。本来であれば自分が持っているはずのポテンシャルを引き出した(ここの演出凄く良かった)。
世界なんて無くなってしまえと呪いながら、自分の心を持て余し、苦しみの坩堝で居場所を探した。
家庭は呪いだ。子供には、どうすることもできない。それに争い、抵抗し、立ち向かう姿は、悲しいほどに痛々しくも争う人間の姿だ。
今回の作品は、それが凄く刺さった。
家庭は死ぬまで付いて回る、どうしようもなく、関わりあい続ける以上、どうしようもない存在だ。
彼女は家庭を受け入れた、これからは彼の物語がはじまる。彼と彼の父はどうなるのだろう、きっと、Uのお陰で彼が穏やかに暮らせる未来がやってくる、と思いたい。ただ、今までの傷が癒える日は来ないかもしれない。
人生とは残酷であり、彼の物語は残酷に続いていく、田園調布の一等地で。父親の呪いとともに。
人は一人である。ただ、一人かどうか、何かと繋がるかを選ぶことはできるはずだ。
そういうことを考えた。